第６課　和室の安らぎは自然の溫もり
    日本を離れ、海外に長くいると、むしょうに日本が戀しくなることがあります。そんな時、決まって思い出すのが、畳敷きの和室、湯風(fēng)呂、そして焼き魚とみそ汁です。いわゆる和風(fēng)の生活なのですが、戀しいのは生活スタイルだけではなく、目に見えない文化のような気がします。
    言うまでもなく、人間は生まれ育った気候、風(fēng)土、地形などによって生活のあり方を根本から規(guī)定されています。例えば、乾燥し、荒涼とした風(fēng)土であれば、人間は自然に対して意志的になり、対抗的になると言われます。逆に日本のように溫暖で自然に恵まれた風(fēng)土であれば、人間は自然に従い、自然の恵みをそのままに受容する生活を求めます。実は和風(fēng)の生活の根っこにあるのは、この自然に即した生活であり、それが日本人である私に安らぎを與えてくれるのではないかと思うのです。
    最近、和室というと単に畳敷きの部屋を指すようになりましたが、本來はいろりを囲む居間と、床の間のある座敷という2つの空間から作られていました。居間が家族の団欒の空間であるとすれば、座敷は特別な行事や接客のための空間で、ふたつはふすまや障子で區(qū)切られているだけですから、開けると続き部屋になりました。また日本では、毎日夜に布団を敷き、朝たたんで片づけますが、そのための押し入れが各部屋に付いているので、同じ部屋を広く色々な目的のために使えます。この伸縮自在性と多目的性こそ和室の特徴で、寢室、リビング、ダイニングのように用途別に區(qū)切られた洋室とは大きな違いがあります。和室が色々なものを包む風(fēng)呂敷だとすれば、洋室はいわば用途別に作られた鞄のようなものです。
    この木造の和風(fēng)建築と和室は、雨が多くて多濕な日本の風(fēng)土にはぴったりの住居でした。木は呼吸し、濕度を自動調(diào)整してくれますし、畳はもともと寢具のひとつであり、夏は涼しく、冬は保溫力があります。しかも、い草の溫もりと香りは、生物たちが大地や森に抱かれたような感覚、ある種の安心感を與えてくれます。ですから、日本人なら誰でも庭がついた木造一戸建ての和風(fēng)の家を持ちたいと思うのですが、都市部の地価はとても高く、その上、建築費が歐米の２倍以上もするので、一般庶民にはとても手が屆きません。
    そこで現(xiàn)代建築は、アパートや公団のように集合住宅化したり、耐震構(gòu)造の高層ビル化し、部屋も冷暖房完備、換気、給水、排水設(shè)備の整った箱型になり、それぞれが個室化しています。ところが、これほど建物も部屋も歐米化したにもかかわらず、日本人は畳の生活を捨てようとはしません。風(fēng)呂？洗面？トイレが一つに組み込まれた洋式のバスルームも日本人にはなじみにくく、依然として風(fēng)呂とトイレが別室で、肩まで浸かる伝統(tǒng)的な湯風(fēng)呂が主流です。それは、日本人にとって風(fēng)呂は、ただ汚れを落とすだけのところではなく、心と體の疲れをとる安らぎの場だからです。
    ここには歐米風(fēng)の生活と文化を取り入れながらも、一方では伝統(tǒng)的な和風(fēng)の暮らしを頑固に守り続ける日本人のもう一つの姿があります。和洋折衷と言ってもいいと思いますが、これは日本人が異文化や海外の進んだ技術(shù)を受け入れるときの基本スタイルのようです。
    さて、一時期、「兎小屋に住む日本人」と歐米の人にからかわれたことがありますが、最近の新築住宅の平均の広さは100？で、歐米並みになっています。ただ、バブル崩壊で安くなったとはいっても、３DKの新築マンションは年収の10倍近くしますから、一般サラリーマンが兎小屋を抜け出すのには、まだまだ少し時間がかかりそうです。