いま僕は、ｋ子との別れを、甘く美しいものとして回想できる。
    二人は愛(ài)し合っていたが、互いの立場(chǎng)を理解して別れたのだと思い込むことができる。
    それはまさしく、思い込むという言葉があたっている。年月の風(fēng)化が、美しいものに過(guò)去をすり変えた。
    だが、別れの実態(tài)はそんな美しいものではなかった?；イい藗膜焙悉ぁ⒘Rり合い、弱點(diǎn)をあばき合った。
    とことん、相手がぐうの音も出ないほど、いじめつけて、そして自分も傷ついた。
    愛(ài)した人との別れは、美しいどころか、凄慘でさえあった。
    しかし、それはいいかえると、そうしなければ別れられなかった、ということでもある。
    そこまで追いつめなければ別れられないほど、二人は愛(ài)し、憎みあっていた。
    僕は今でも、「君を愛(ài)しているから別れる」という臺(tái)詞を信じられない。
    そういう論理は、女性にはあるかもしれないが、男にはまずない。
    たとえば、戀人にある縁談があったとき、「君の幸せのために、僕は身を退く」ということを言う男がいる
    また、「僕は君には価しない駄目な男だ。君がほかにいい人がいるなら、その人のところに言っても仕方がない」という人もいる。
    こういう臺(tái)詞を、僕は愛(ài)している男の言葉としては信じない。
    もし男が、相手の女性をとことん愛(ài)していれば、男はその女性に最後まで執(zhí)著する。
    もちろん、人によって表現(xiàn)に多少の違いはあろうが、そんな簡(jiǎn)単にあきらめたりはしない。
    その女性を離すまいとする、かなりの犠牲を払っても、その女性を引きとめようとする。
    戀とは、そんなんさっぽりと、ものわかりのいいものではない。
    いいどころか、むしろ獨(dú)善的である。
    相手も、まわりの人も、誰(shuí)も傷つけない愛(ài)などというものはない。それは、傷つけていないと思うだけで、どこかの部分で、他人を傷つけている。
    愛(ài)というのは所詮、利己的なものである。
    だから傷つけていい、という理屈はもちろん成立たない。他人を傷つけるのは、できる限り少なくしなければならない。
    「君の幸せのために、僕は身を退く」という言葉は、一見(jiàn)耳ざわりがいい。
    冷靜に、大きい視野から、物事を見(jiàn)ているように思う。
    しかし、愛(ài)に冷靜とか、大きな視野などというものが必要であろうか。少なくとも、燃え滾る愛(ài)の火中にある人が、そんなことを考える余地があるだろうか。
    冷靜とか、客観的という言葉は、なぜか「愛(ài)」にそぐわない。借り物のような感じがする。
    「僕は君にそぐわない。君の幸せのために身を退く」
    こんな言葉を言いかけたとき、男は相手の女性と別れることを考えている。そろそろ退けどきだと思っている。
    その証拠に、女性が、「私はあなたで満足だから、いつまでも従いて行くわ」といったところで、男は態(tài)度を変えはしない。
    やはり、「僕は君に価しない」と繰り返して引き下がっていく。
    男は大膽なようで、根本的なところで気の弱さがある。それは一種の優(yōu)しさでもあるが、曖昧さでもある。
    男が女性と別れたいと思うとき、面と向かって、「君が嫌いになった」とは言わない。そういう臺(tái)詞は、言うべきことでないと、幼い時(shí)から教えられている。
    女性から去っていくとき、男は少しずつ疎遠(yuǎn)になる。もし女性がそれを許さず、面と向かって問(wèn)い詰めたとき、男は次のような臺(tái)詞を吐く。
    「君の幸せのために身を退く」
    考えてみると、この言葉は便利であるとともに罪深い。
    こういう耳障りのいい言葉で、男は逃げようとするが、同時(shí)に、この言葉には、もしかして、別れは美しいのではないかという錯(cuò)覚を抱かせる。
    愛(ài)し合ってなお?jiǎng)eれる、そのときにも、この言葉は使われる。
    あの人は、わたしを愛(ài)していた。好きだったけど、ある事情で別れざるを得なかった。そう思うことで女性は納得し、別れを思い出の一頁(yè)にくり込むことができる。
    男も、內(nèi)心はともかく、そう信じ込もうとする。
    誰(shuí)でも、どうせ別れるなら美しく別れたい?；イい嗽鳏蓼骸⒃鳏蓼欷簞eれたいと思う。
    それは男も女も同じである。
    だが、真実愛(ài)し合った愛(ài)は、往々にしてきれいごとでは済まされない。互いに傷つき、罵り合い、痛め合って別れる。
    そこにこそ、人間のはかりがたい、理屈どおりに行かない、おろかで哀しいところがある。
    「君の幸せのために」などという言葉の中に、僕は真実を見(jiàn)ない。
    そこには愛(ài)の軽薄さと、調(diào)子のよさしか感じられない。
    本當(dāng)に愛(ài)し合った末の別れなら、どんなに傷つけ、罵り合ってもいい。とことん傷つき、そこからもう一度這い上がればいい。
    別れるとき、美しいか醜いか、スタイルなど考える必要はない。無(wú)理に美しい別れに拘泥することはない。
    今無(wú)理に別れをつくろわなくても、やがて年月が、過(guò)去のベールを通して、美しく甘い別れに変えてくれるからだ。
    渡辺淳一：小説家。直木賞選考委員.北海道上砂川町に生れる。札幌醫(yī)科大學(xué)醫(yī)學(xué)部卒。醫(yī)學(xué)博士。中學(xué)時(shí)代から短歌に親しみ、のち醫(yī)學(xué)と文學(xué)を志す。大學(xué)在學(xué)中同人雑誌「東しょう」に參加。卒業(yè)後昭和41年から整形外科講師をしていたが、心臓移植事件をさなかの43年に大學(xué)を辭めて上京、作家生活に入る。母の死を醫(yī)者の目で捉えた「死化粧」で新潮同人雑誌賞を受け文壇にデビュー.テレビ？ラジオドラマも執(zhí)筆.45年運(yùn)命の力に翻弄される人間のか弱さを描いた「光と影」で直木賞を受賞し、55年には「長(zhǎng)崎ロシア遊女館」で吉川栄治文學(xué)賞を受賞.明治時(shí)代を中心とした歴史的伝説的なもの、男女の愛(ài)と性のものなど幅広く活躍.ほかに、「小説？心臓移植」「ダブル？ハート」「女優(yōu)」「花埋み」「ひらひらの雪」「うたかた」「ふたつの性」「空白の実験室」など數(shù)多くある?！付赊x淳一作品集」（全23巻、文蕓春秋）も刊行されている。